裾野が荒廃してしまったパン業界

 私がパン業界に初めて関わりを持ったのは、今から25年前のことだ。あるパンの業界紙の会社に入社したのだった。編集の仕事がしたくて入った会社が、たまたまパンの業界紙だったのだ。パンは嫌いではなかったが、特別意識したこともなかった。初めてパンの講習会なるものに取材に行ったときは、発酵したパン生地の芳醇な香りに驚いたことを今でもはっきり覚えている。
 その頃のパン業界と比べると、今のパン業界は、かなり様変わりしている。最も変わったと感じるのは、中間層というか、平均的な最も層の厚い部分のパン屋さんが儲からなくなったということだ。それは、日本全体の経済状況と呼応する形の現象だが、高度経済成長の時代の日本で叫ばれた「一億総中流」の輝かしき図式が、跡形もなく消え去ってしまったかに見える。普通のパン屋さんが、普通に頑張れば儲かっていた時代はもう過ぎ去ってしっまったかに見える。そして、全体的に、パン屋さんの規模が小さくなってるように感じる。それは、店舗面積の規模であり、売り上げの規模であり、野心の規模だ。
 その一方で、一部の偏差値の高いパン屋さんの活躍がより際立って見えるようになっている。それはマスコミがパン屋さんに注目するようになったためであり、パン屋さんの意識が高くなったためであり、パン屋さんの格差が大きくなったためだ。
 頂点は輝いて見えるが、すそ野は荒廃して見えるという図式は、好ましくないないが、残念ながら今のパン業界はそうなってしまっているかも知れない。広大なすそ野が肥沃であるからこそ、その頂点がその延長上で輝いて見えるという図式でなければ、人々の心は荒んでしまい、ひがみ根性が蔓延してしまうだろう。普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛できるパン業界にするにはどうしたらいいのだろうか?